ついに日本の出版業界にも定額制の波がやってきました。月額980円でマンガ本(コミック)・雑誌・小説が読み放題。素晴らしいサービスです。
芸術分野に関して言えば、すでに音楽業界がこの時代に突入しているので、関連ニュースを見てもあまり驚きもしない情報が多い印象です。
出版業界はこれからどういう道を進んでいくのでしょうか?先行している音楽業界の話を引き合いに出し、考察してみます。
相対的にコンテンツの価値は下がる
まず間違いないのは、対象のKindle本が読み放題となるKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)によって、多数の本の相対的価値は下がるということ。
前と変わらず素晴らしい本がたくさんあるのに、高いお金を出す価値がある本がたくさんあるのに、本の価値は下がったように感じてしまうでしょう。
- 980円で購入した一冊の本
- 980円の読み放題サービスの中の一冊の本
どちらの本を価値が高いと感じるか?それは当然「980円で購入した本」です。”わざわざ”お金を出して買うんですから。
これに関しては、音楽好きなみなさんもよくわかる話ではないでしょうか?昔よりも確実に「一曲」に対する情熱は薄れていますよね?
僕には考えられないですが、YouTubeで聴けない音楽は聴かないという方も多くいるでしょう。「無料だからこそ価値がある」というパターンですね。
値段=価値ではない
しかし、逆説的ではありますが、
- 高いお金を出して読んだから「素晴らしい本」
- 読み放題の中の一冊だから「つまらない本」
とはなりません。高いお金を出しても、無料でも、良いものは良いし、悪いものは悪い。「値段」と「価値」はノットイコールなんです。
- アベマTVで観れるアニメは面白いし
- Google Play Musicで聴ける音楽は良いし
- Huluで観れる映画は素晴らしいし
月額定額制や無料のコンテンツだからと言って、絶対的な価値は下がらないんです。
“わざわざ”高いお金を出さないと読めない本は読まない
この延長線上にある未来は、「わざわざ高いお金を出さないと読めない本は読まない」文化の普及です。

月額980円で本が読み放題だし、980円の本とか買いたくないんだけど。
こう思う人がこれから劇的に増えていくことでしょう。だから…
「高いお金を出さないと読めない本=価値が高い本=読みたい」
という図式が、ほとんどの場合成立しなくなるはずです。その本の価値が高くても、「高いお金を出さなければいけない」というだけで多くの人には拒否されます。
「僕らの本はすごく良いものだから高いお金を出してくれ!ちゃんと購入してくれ!」と訴えても、大多数の人には届きません。スガシカオさんのメッセージが記憶に新しいです。
「特定のファンにピンポイントで訴求する」と言えば、マーケティング的には聞こえはいいですが、本来の意味での「ユーザーへの訴求」としては機会損失になってしまいます。
音楽業界では、
- ジャニーズ
- ヴィジョンファクトリー(現ライジングプロダクション)
- 一部のアイドルグループ
なんかが、まさにそういう戦略(特定のファンへの訴求)を取っていますが、ジャニーズの曲に関しては10年以上まともに聴いてないような気がします。(せめてiTunesで配信して欲しい)
クリエイター(音楽家・作家)の戦略
これを踏まえると、多くのクリエイターが意識すべきことは主に2つ。
- 「時間差」の演出
- 「限定感」の演出
「時間差」の演出
他の人よりも先に素晴らしいコンテンツを提供する…ではなく、「定額制サービスよりも先にどこかで提供する」という演出(戦略)です。
音楽業界でよくやっているのは、CDやiTunesで先に販売をスタートし、少し遅れてから定額制音楽配信サービスで配信する…というもの。
- コアなファン→いち早く聴くためにお金をかけて購入する
- それ以外のユーザー→少し待ってから聴く
こういう構図になるため、結果的に、多くのユーザーを無視しなくても済みます。
「限定感」の演出
先述の音楽業界における「特定のファンへの訴求」に通ずる話ですが、「限定感」を演出するのも効果的です。
- CDを購入しなければ聴けない曲
- 実店舗で購入しなければ読めない本
- 集英社でしか購入できない電子版のジャンプ
など。ただ、一部のクリエイターや、大手企業にしか効果がないのがミソです。正直、力のない者が今から「ジャニーズ」や「集英社」のような戦略はとれないし、とる必要もないでしょう。
すでに「特定のファン」を抱えているからこそ、プラットフォームがあるからこそ、このような戦略がとれて、成功を収めているんです。圧倒的な力があるからできることです。
ほとんどの場合、クリエイター側がユーザーの行動範囲を限定するのは効果が薄いはずです。
「時間差と限定感の演出」の具体例
「時間差」と「限定感」をうまく演出できれば、このような戦略をとることもできますよね。段階的にマネタイズをすることができます。
作家(出版業界)
- 実店舗で書籍販売
- 電子書籍販売
- Kindle Unlimitedで読み放題可能にする
- noteで有料公開
- ブログで無料公開
音楽家(音楽業界)
- CD販売
- iTunes販売
- 定額制サービスで音楽配信
- YouTubeで公開
- サウンドクラウドで公開&ブログで公開
「既得権益」か「ユーザーへの歩み寄り」か
既得権益を守りたいクリエイターの気持ちは痛いほどわかりますが、もはや、多くのユーザーは「ワガママ」になっているはずです。
- なんで集英社の作品は読み放題じゃないの?
- なんでジャニーズの曲は聴き放題じゃないの?
- 音楽も本もなんで無料で楽しめないの?
「既得権益のため」に、「相対的に価値を高め続けるため」にとっている戦略がユーザーには理解しがたいんですよね。「なんでそんなことする必要があるの?」と。
音楽業界が歩んできた道を考えると、これから出版業界も同じような道を歩むことになるはずです。ここら辺はイケダさんも考察されてます。
本日の人気記事。/【考察】Kindle Unlimitedは出版業界にどのような影響をもたらすか。 : まだ東京で消耗してるの? https://t.co/InoGXzqdUw pic.twitter.com/gPOHXUJcj8
— イケダハヤト (@IHayato) 2016年8月4日
まとめ
マネタイズの方法が変わるだけでなく、コンテンツの消費のされ方さえも変わってしまう「定額制サービス」や「無料サービス」の普及。
「Winny」や「LimeWire」の異常な時代を考えると、とても健全な時代にはなりましたが、クリエイターの体力は依然として低下気味です。
一部の巨大なプラットフォームではなく、ユーザーとクリエイター、双方がハッピーになれる仕組みが早く整うことを期待しています。